脳卒中グループ

研究グループの概要

「Time is Brain」。脳卒中の治療においてよく使われている言葉です。脳は虚血に対して非常にもろく、不可逆的な障害を受けやすい組織です。いかに脳梗塞による脳へのダメージを少なくするかは時間との勝負という一面があります。また発症すぐの超急性期の治療はもちろんのこと、その後の急性期や回復期、維持期といったさまざまな時期の治療を適切な施設でスムーズに行えるかどうかも、脳梗塞治療の要になります。

名古屋市立大学神経内科では、初期診療を行う救命救急センター、血管内治療や外科手術を行う脳神経外科、画像診断を行う放射線科、急性期リハビリテーションを行うリハビリテーション部、患者さんの社会的なことや転院について相談する地域連携室などと一体となって脳卒中診療に当たっています。またISLS(Immediate Stroke Life Support)といったシミュレーション教育や、脳卒中の発症や病態を解明するための臨床研究も行っています。

1. 診療

超急性期脳梗塞に対して2005年10月よりrt-PA静注による血栓溶解療法が出来るようになり、脳梗塞治療は一気に様変わりしました。「Time is Brain」の考えの重要性が強調されるようになったのです。rt-PA(アルテプラーゼ)は脳の血管に詰まった血栓を溶かす薬で、効果が出れば脳血流の再開により劇的に症状が改善しうるものです。しかし半面出血性合併症のリスクが高いために適応が限られ、発症より一定以上の時間が経った脳梗塞には投与できません。現在のところ発症4.5時間以内の脳梗塞に限られています。またより早く投与したほうが、より効果があるということも言われており、いかに遅滞なく投与するかも重要なことになっています。神経内科では、超急性期脳梗塞症例に対し、この血栓溶解療法を施行しています。また近年、発症8時間以内の脳梗塞に対してデバイスを用いての血栓溶解治療ができるようになりました。当院脳神経外科にはこのような血管内治療に長けたスタッフがおり、神経内科と脳神経外科が常に連携し、適応がある症例には速やかに施行しています。またその後の病棟での急性期治療や観察も最先端の画像機械などを用いて遅滞なく行い、回復期リハビリテーション病院との連携も密にとるなど、適切な時期に適切な治療がスムーズに行われるようにしています。

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<脳底動脈の脳梗塞に血管内治療を行った症例>

2. 教育

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<2013年12月開催されたISLSコースの様子>

脳卒中の治療に長けたスタッフがいたとしても、そこに患者さんが到着するまでに時間がかかってしまったたとしたら、前述の超急性期治療はできません。もちろん、医師ばかりではなくコメディカルスタッフの協力も必要です。脳卒中の患者さんを最初に診たものが、無駄なく初期対応をして専門家に受け渡すにはどうしたらいいか? スタッフ間で意識を共有するのにはどうすればいいか? といった観点から、2006年に脳卒中初期診療のシミュレーション教育を行うISLSコースが誕生しました。現在この愛知県では、ISLS中部という団体を中心に2カ月に1度ほど講習会が開かれており、名古屋市立大学病院でも2010年8月に初めて開催され、以降定期的に開催されています。幸い好評で毎回全国からの受講生で賑わっています。このように神経内科教室がISLSコースを行っている大学病院は日本全国でも希少です。

また、近年普及しつつある内科救急のコースであるJMECC(Japanese Medical Emergency Care Course)の運営にも当院の中心的に携わっており、教室員には日本全国でもまだ少ない(2014年1月現在47名)JMECCディレクターもいます。

3. 救命救急医療への貢献

当教室の特色として、救急医療への参加が挙げられます。前述の超急性期の診療のためもあり、救命救急センターに所属しているスタッフがおり、名古屋市の救命救急医療の一端を担っています。災害医療への参加もしており、近年ドラマなどで話題となっています日本DMAT隊員もいます。

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<名古屋市立大学病院DMAT(Disaster Medical Assistance Team)>

4. 臨床研究

脳神経外科や放射線科など他教室との連携のもと、脳卒中の発症にかかわる臨床研究を主に行っています。頸動脈狭窄病変の形態変化と脳梗塞発症リスクの研究や炎症性サイトカインと脳梗塞発症の研究、頭蓋内動脈解離の画像研究などを行っています。

『頸動脈狭窄病変におけるpositive remodelingの発症リスクに関する研究』
頸動脈狭窄病変の動脈硬化の進行の形態変化の脳梗塞発症リスクに関する研究です。Positive remodelingという血管外周への動脈硬化変化が、脳梗塞の発症リスクに関係するということを、放射線画像や病理標本から検討して発表しています。

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<放射線画像による検討>

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<病理標本による検討>

メンバー紹介

  • 三浦 敏靖
  • 藤岡 哲平